「もう一度観たいあの映画」VOL.34 『狼たちの午後』
監督:シドニー・ルメット 主演:アル・パチーノ、ジョン・カザール
【STORY】
1972年8月22日、ニューヨークは茹だるような暑さだった。14時57分、ブルックリンのチェイス・マンハッタン銀行に3人の強盗が押し入った。10分もあれば済む計画だったはずが、1人が怖気づいて逃走。だがソニーとサルがそれ以上に予想外だったのは、行内に現金がほとんど残っていないことだった。途方に暮れるソニーの元に、警察から銀行は完全に包囲した、武器を捨てて出てこいと電話が入るが―。
【REVIEW】
1972年8月22日、ニューヨーク・ブルックリンで実際に起こった銀行強盗を題材にしています。
映画は冒頭、マンハッタンの街並みとそこで優雅に暮らす金持ち、必死に働く労働者、貧困層などをリアルに映し出していきます。明らかに貧富の差があるなって映像です。そして、最後に一台の車でカメラが止まります。その車には、まさに目の前の閉店間際の銀行を襲おうとしている3人組が…。
銀行に押し入る3人ですが、一人はびびって逃げ、当の金庫には金もなく、銀行強盗未遂の状態で警官に包囲されたソニー(アル・パチーノ)とサル(ジョン・カザール)。周囲は警官だけでなく、マスコミ、野次馬が銀行を取り囲みます。ここからは、ライブ感というか、その場で事件をみている野次馬のような感覚になります。ソニーは警察に包囲された銀行から出てきて、すぐ銃を向ける警官たちの横暴さに叫びます。「アッティカ! アッティカ!」これは看守の暴力に端を発した「アッティカ刑務所」暴動事件のことで、野次馬たちも同調してソニーに合わせて叫び合います。このシーンのソニーはロックスターのようですね。ここからはソニーの人物像も浮き彫りになります。ベトナム戦争に従軍していたこと、二人の子供と妻がいること、さらに教会で正式に籍をいれたもう一人の妻(男)がいることなど…
先ほど紹介した冒頭のブルックリンを映しだすシーンに流れているBGMは、エルトン・ジョンの「過ぎし日のアモリーナ」、なんか意味深ですね。この時エルトン・ジョンは同性愛者であることをカミングアウトしていないと思いますが。
一方、銀行の中では、人質の銀行員9人とソニー、サルの間に連帯感が生まれてきます。ストックホルム症候群ってやつですね。彼らは逃げられるようなタイミングでも逃げずに2人に協力します。2人は人質を盾にしてバスに乗り込み、ケネディ空港から高跳びする計画を実行しますが…。
「ゴットファーザー」でもアル・パチーノと共演したジョン・カザール、寡黙で口数の少ない役ですが、とてもいい味を出しています。惜しくも肺がんを患い42歳の若さで亡くなりました。遺作は「ディア・ハンター」で、共演していたメリル・ストリープと婚約もしていました。
◇『ディア・ハンター』
ストックホルム症候群の語源となったスウェーデンで起こった銀行強盗を題材にした映画です。
現在も上映中です。
◇『ストックホルム・ケース』
社会派のシドニー・ルメット監督、本作の前にもアル・パチーノ主演で映画を撮っています。
◇『セルピコ』
アル・パチーノは本作でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされますが、受賞したのは「カッコーの巣の上で」のジャック・ニコルソンでした。
◇『カッコーの巣の上で』